マニック・ストリート・プリーチャーズ『Everything Must Go』 リッチー最後の参加(?)作品

久方ぶりにマニック・ストリート・プリーチャーズの『Everything Must Go』を聴いた。懐かしさとともに、このアルバムについてあらためて詳しく調べてみることにした。

 

f:id:ichir0takada:20190330161855j:plain

 

ブリットポップ全盛期の大ヒット

マニックス4枚目のスタジオアルバムで、1996年5月にリリースされた。メンバーの一人で作詞とリズムギターを担当していたリッチー・エドワーズ失踪後初めてリリースされたアルバムでもる。

 

1990年代中盤はいわゆる「ブリットポップ」の全盛期だった。このタイミングでリリースされた『Everything Must Go』は商業的に大成功し、同時に批評家からも大絶賛された。イギリスのアルバムチャートでは第二位を記録、1997年のブリット・アワードでは「Best British Album」を受賞。マニックスも「Best British Group」を受賞している。

 

このアルバムは本国イギリスのみならず、ヨーロッパやアジア、オーストラリアでもヒットし、2百万枚以上を売り上げることとなる。また今までもNMEやQなどと言った音楽雑誌で「オールタイムベスト・アルバム」のひとつにランキングされてきた。

 

サウンドの変化

ギターのジェームスディーンブラッドフィールドによると、ドラムの音がこのアルバムにはとても重要で、これは他のバンドの作品からの影響があると言っており、ザ・キュアの『Pornography』、ジョイ・ディヴィジョン、ワイヤー、マガジン、スージー・アンド・ザ・バンシーズ、アソシエイツと言ったバンドの音楽が、ドラムとともに始まるのに影響を受けたようだ。

 

制作中、このアルバムは「Sounds in the Grass」と呼ばれており、これはジャクソン・ポロックの絵のシリーズのタイトルから取られた名前だった。一方「Everything Must Go」というのはパトリック・ジョーンズの書いた戯曲から取られたものである。ジョーンズはマニックスのベーシスト、ニッキー・ワイア―の兄。

 

『Everything Must Go』からバンドのサウンドづくりがガラリと変わった、と言われている。前作『The Holy Bible』では楽器は最小限に抑えた音作りになっているが、『Everything』ではシンセサイザーやストリングスを取り込み、賛歌のようなロックスタイルで作られている。より多くの人たちに受け入れられる音作りで、当時最高潮を究めていたブリットポップのムーブメントにぴったりのサウンドに仕上がった。

 

リッチーによる詞

また作詞についても、それまで担当していたリッチーがいなくなってしまったため、変化を余儀なくされた。それまでの内向的で自己投影型の歌ではなく、ニッキーによる歴史や政治をテーマとした歌がアルバム全体を占めた。

 

それでもリッチーが作詞をした曲は5曲収録されている。例えば「Kevin Carter」では、南アフリカ出身の写真家ケヴィン・カーターについて歌っている。カーターはこの写真(下)でピューリッツァー賞を受賞しているが、1994年に自ら命を絶った。リッチーが姿を消したのはその翌年だった。

 

https://1.bp.blogspot.com/-iOVFs3KcqP4/V2SJc1PpeLI/AAAAAAAAKZE/MsQcmlFa3yI9TgJPSq3ANZ_qK5NN7lfJwCLcB/s1600/The%2Bvulture%2Band%2Bthe%2Blittle%2Bgirl.jpg

 

「Small Black Flowers That Grow in the Sky」もリッチーの作詞だが、これは檻(おり)の中に入れられた動物たちの様子を描いた曲だと言われている。また「自分の尻尾を噛むのは喜びだ」という意味の歌詞があるが、これはリッチーの自傷癖を動物園に閉じ込められている動物たちの自傷行為に重ね合わせたものだという解釈がされている。

 

歌詞以外では「No Surface All Feeling」のリズムギターはリッチーが失踪前にレコーディングしてあったものが使われている。そういう点で、一部ではあるが、このアルバムはリッチーが "参加" したマニックス最後のアルバムであると言えるかも知れない。